吉田工場長の部屋
(月刊ジャーマンカーズ2005年9月号掲載)


ん?タイヤが変だぞ?

みなさんこんにちは。

先日、私は開通して間もないつくばエキスプレスに乗ってまいりまして、
特に用事があったわけではなくただ単に面白そうだったので(笑)
秋葉原〜北千住間を乗車してきました。

例の完全自動運転と噂される運転台にコドモのように陣取った私は、
そらもう食い入るように運転風景を見ていたんですが・・・
実際はボタンを押したりレバーを手前に目一杯引いたりするだけで、
細かいブレーキ調整とかそーいった操作は、
やっぱりというか全くやっていませんでした。


操作レバーっぽいヤツも引くか、戻すか、それだけで走行中は
手前に引きっぱなし。なのに速度はカーブに差し掛かれば減速、
上り坂では加速、で、レバー引きっぱなしなのに停止位置ぴったりに停車。
何だか見ごたえのないつまらん運転風景というか、
何もしてないのにひょいひょい車速が変わる不思議な光景というか、
電動モーターの高い金属的な、ジェットエンジンの音を軽くしたような
きぃぃーんっていう走行音とあいまって何とも不思議な感覚でした。

物事って進化の過程で必ず自動化というのが進んでいくんですよね。
自動車もトランスミッションや空調が自動で制御されるパターンが
一般的ですし、最近のはスロットル制御も電子制御ですから、
自動車自体が半自動制御といっていい代物になってきています。


電子制御スロットルの利点は、ワイヤー式とちがって固着する、切れる、
という心配がないなどメカニズムをシンプルにして
トラブルを減らすという事の他に、人間が「踏め」と命令しても
車両側が危険と判断すれば全開指示を拒否できる、
という人為的ミスを回避できるところでしょうか。

そう、例の悲惨な脱線事故も完全に人為的なミスだったと思います。

−速度超過−

これほど自動制御が高度に発達している現代において
信じられない原因による事故。
昔、イギリスの子供向け番組で「サンダーバード」っていうのがありましたよね。
その第一話が暴走する自動制御モノレールから乗員を救う、
というような内容だったと思います。
当時は「キカイは完全ではない」といわれていた時代でしたが、
制御技術が発達した現代、技術屋さんの間では
「人間はミスをするケダモノ」という話はもはや当然なんだそうです。

BMWのDSCは車のヨーレートと前後のホイール回転数を常にモニターして
「こりゃヤバいスピンしちまう」と感じるとスロットルを戻し、
場合によってはブレーキまで(しかも個別のホイールにバラバラにかけられる)
かけて車体の安定を図る装置です。
個人が購入できる自動車にそれほどの装置がついていて、
不特定多数の人間が乗る電車にその装置がついていないというのも
考えてみればヘンな話で、つくばエキスプレスのような乗り物は
むしろ当然なのかもしれません。

もっと上には完全無人という「ゆりかもめ」もあったりしますし。
こういった自動化というシロモノは人間を「楽」にしてはくれますが、
同時に「楽しみ」をそぎ落としてしまう気がしますよね。
自動=楽チン=つまらん=安全、手動=面倒=楽しい=危険
という方程式は一応技術の力で
「マニュアルモード付きのオートマチックトランスミッション」みたいに
ちょっとずつ落としどころを作って解決しているみたいですが、
まだまだ時間かかりそうですよね。

さて今日は、そんな完全自動化され味わいを無くした車に
辟易してしまい、自分で操作する喜びを満喫するために
生まれてきたような車を見てみましょう。

今日のお題はM3です。最近MとかE30とか増えましたね、入庫が。
最近の車は壊れにくくなった、というのも正しいんでしょうけれど、
こういった車を大事にする行為がお洒落の一部として定着しつつある
という証なのかもしれません。

E30M3は基本性能が高いんですが、いかんせん15年以上も前に作られた
車なもんだから、ゴム部品を中心に結構なヨタりかたをしてるのが多く、
調整も狂ってきているのもぼちぼち出てきていますから初期の性能が
だいぶ落ちてきているパターンが主ですね。

それでは基本中の基本、ヴァルブクリアランスの調整からまいりましょう
(写真1)

いつものようにシックネス・ゲージをあてがって測定します。
やっぱりというか、思いっきり狂ってましたので調整します。
装着されている500円コインみたいなシムを外して適正な厚みのシムを
あてがっていきます。

外したシムはストックしておくんですが、
どういう訳か3,80mmのシムばかり増えてしまいました(写真2)
ま、いつか出番が来るでしょう。

終わったらインテークマニフォールドのゴム部品をみんな交換してしまいます。
時々E30M3でアイドリングがボソボソ言っていて
ちっともフケ上がらないのがありますが、
そういう車はINマニのエア吸いが原因ってのが結構多いんですよ。

見てみましょう(写真3)

これはサージタンクを外してスロットルバタフライを見ている状態ですが、
よく見ると中に組み込んであるOリングが痩せてしまっています(写真4)


こういうちょっとしたところからエア吸いを起こし、混合気不良からエンジンの
ばらつきという症状になってしまうんです。

外したサージタンクも分解してみます(写真5)
吸入気の流速を確保するためのポートが美しいですね。
ここにもOリングが使われています(写真6)ので交換しておきます。
これだけでも結構なゴムパーツを交換したんですが、まだあります。
スロットルバタフライとエンジン本体を合体させている「インシュレーター」
という部品(写真7)
これが一番エア吸いの原因になったりするんです。
外した部品と新品を見比べてみましょう(写真8)
分かりにくいかもしれませんが、INマニの周囲を囲むように
突起が出ているんですが、それがつぶれてしまっています。
それと、前回どこかの誰かさんが分解した時に
液体ガスケットを塗布したようですが、これは全く効果がありません。
エンジンの振動ですぐ隙間が出来てしまい、
エンジン不調の原因になりますから、定期的に交換するしかないでしょう。
スロットルバタフライは外したついでに掃除しておきます(写真9)
全てのINマニゴムパーツを交換したら最後に
CO調整を行って終了です(写真10)

かなり調子が出ていいクルマになりました。

実は久々にE30M3に乗ったんですが、
調子が出てるM3って結構速くていいですね〜。

これはもしやオートマ時代の何となくおまかせ感に慣れきった体に
マニュアルの持つダイレクト感が心地いいっていうヤツでしょうか?
ちょっと欲しくなりました。

それでは、また。

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