吉田工場長の部屋
(月刊ジャーマンカーズ2004年10月号掲載)


ん?タイヤが変だぞ?

みなさんこんにちは。

いやはや、度々訪れる大型台風の次は大地震ですか・・・今この原稿を書いている10月24日深夜、23日に発生した新潟中越地震によるかなりの被害が報道されていますが(うわっ書いている最中にまた揺れた)私が仕事をしているここ埼玉県岩槻市でも結構な揺れっぷりでした。

夜は暗くなってしまい、どうしても作業性が落ちてしまうために下回りの仕事はなるべく昼間に済ませ、夜は上から覗き込むような作業を中心にしていたため、この地震発生の時もタイミングベルト交換なぞを手がけていた為難を逃れることが出来ましたが、もしオートマチックトランスミッションの脱着作業中だったらと思うと背筋が凍りますね。皆さんのところはどうだったでしょうか?

さて今回はやっと阿部君のシリンダーブロックオーバーホールにこぎつけましたのでレポートしてまいりましょう。

クランクシャフト(写真1)キレイなもんです。このエンジン、オイル管理がちゃんとしていたんでしょうね。

クランクシャフトを外すのに誤って私がオイルポンプ駆動シャフトをへし折ってしまったのはご愛嬌(写真2)

阿部君、ごめん。何もかも外してしまったシリンダーブロックはこんな感じです(写真3)
シリンダーをアップで覗いてみると、これまたキレイなもんですね(写真4)
クランクシャフトを支持する、通称“親メタル”クランクシャフトベアリング(写真5)これはかなり重要な部品で、ベアリング自体の作りが悪かったりオイル管理がまずかったり極端に過酷な条件に置かれると張力がなくなってベアリングキャップから外れてしまったり痩せてがたが出てしまったりしますが、ご覧のとおりピカピカです。オイル管理もしっかりしていたんでしょうが、ベアリング自体も充分な厚みがあって丈夫なんでしょうね。
続いてピストンとコンロッド(写真6)
何だかきったなく見えますが、実はかなりキレイなほうです。ひどい車はピストン全体がカーボンだらけで真っ黒になっていて、ピストンリングがリング溝に挟まったままカーボンでがっちり固まってしまう「リングスティック」を起こしたりリング自身が完全に張力を失って広がらなくなっていたりしますが、このリングは裏側にうっすらカーボンが堆積しているくらいで問題はありません(写真7)
コンロッドにくっついている通称“子メタル”コンロッドベアリング(写真8)これも張力を失う事もなければ痩せてもおらず、問題はありません。こうしてエンジンを眺めてみると、一見味も素っ気もないフツーのエンジンですが、充分なボアピッチ(シリンダーの間隔)、リング溝破損を防ぐ為に厚みを持たせたピストントップ、フリクションを抑える為のショートスカートピストン、厚みを持ったベアリングメタルなど、BMWならではの「コダワリ」を感じてしまいます。
しかしもっと私が驚いたのは、エンジンブロック裏側に全くといって良いほど砂がついていないのです。へ?なんで砂がついてるの?と思われるでしょう。この時代のシリンダーブロックは鋳鉄といって溶かした鉄を砂で作った型に流し込んで成型します。そして冷えて鉄が固まったところで砂型を粉砕すればシリンダーブロックの出来上がり〜なのですが、困ったことにこの砂が残ってしまうんですね。信じがたい事かもしれませんが、この時代の日本車はほとんど全ての車が、といって良いほど鋳砂が残っていて、エンジンチューニングする時にゃ「砂落とし」が基本中の基本だったんですよ。エンジンブロックを洗って、砂をこそぎ落としたり削ったりして砂を取り、爪で鋳肌をコリコリと引っかいてみて爪の間に砂がつかなくなるまでこれを繰り返すとゆー気の遠くなる作業が修行、だったんですが・・・(写真9)
それはBMWエンジンにとって不要な作業ステップです。DOHCxxヴァルブとか何かと目立った構造にばかり目が行きがちですが、こういった数字に表れないところにしっかりとコストがかけられているんだなと思うとやっぱりBMWはエンジン屋なんだな、と思います。
ここんとこ実にゆったりしたペースでエンジンを分解していた阿部君ですが、どうも愛車のE30 325iが先日の台風で水をたらふく飲んでしまったらしく、エンジンがお亡くなりになったようでのんびりしてらんなくなってきたようです。さてこのエンジンが年内に無事火が入るのか?その辺を見守っていきたいと思います(写真10)

ええ、見守るだけです、手伝いません(笑)ガンバレ。

それではまた。

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