吉田工場長の部屋
(月刊ジャーマンカーズ2006年3月号掲載)


ん?タイヤが変だぞ?

皆さんこんにちは。

春休みはどこかへお出かけしましたか?
私は今この原稿を書いている3月未明、まだ長男の学校はお休みに
なってないのですが、春休みに入ったら乗り物好きな
男の子にはたまらない所に連れて行ってあげようかと思っています。
そう、今年5月14日で閉館する「交通博物館」です。
御茶ノ水と秋葉原のちょうど真ん中くらいにある小さな博物館、
私は小さい頃から一人でしょっちゅう秋葉原電気街に出かける道すがら
よくこの博物館にも足を運んだものです。

おにぎりを持って新幹線のシートに座りながら食べたあと、
鉄道模型のコーナーでウィンドウにかじりつくようにHOゲージを見物、
最後はトレインシュミレーター、というコースで回っていました。
トレインシュミレーターといっても私が小さい頃のそれは運転台の前に
どかんと台車が置いてあって、マスターコントローラーと呼ばれるハンドルを
ぐいと手前に引くと台車がウィィィ〜ンと回るだけという単純なもので、
現在のプレイステーション用ソフト「電車でGO」のほうが
よっぽどリアルなんじゃないかと思われるほどのシロモノでしたが、
何しろ運転台はホンモノだし、目の前においてある台車、
パンタグラフも全てホンモノというところが私にはたまらない設備で、
マスコンをひねると抵抗カムががちゃがちゃと回り、
モーターの回転数が上がっていく有様がもう楽しくて楽しくて
何度も列に並んで運転した記憶があります。

旧万世橋駅をほぼそのまま使って設立されたこの博物館は
建物を除く既存の設備をなるべくそのまま残して2007年10月14日に
さいたま市にて新設される予定の鉄道博物館に移されるようですが、
この古めかしい運転台もぜひまた展示して欲しいものですね。
今のインバーター制御を搭載した最新型の電車って
何かつまんないんだもん。
やっぱり電車は抵抗カムがまわらにゃいけません。
そんなこんなで個人的に思い出いっぱいの交通博物館は
さようならキャンペーンとかでにわかに混雑しているみたいですが、
ゴールデンウィークまで開館しているみたいですからまだ行ってない方は
最後の見納めにお出かけになってみてはいかがでしょうか。


さて今日はE38です。え?珍しいですか?
確かに今まであまり取り上げる機会は少なかったかも。
この車、エンジンをかけていると「くぉ〜ん」というヘンな音を出すという事で
入庫してまいりました。一体何が起こっているのでしょうか?
音の発生源はどうやら燃料タンク近辺のようです、早速見てみましょう。

まずは車を持ち上げて下から燃料タンクを見てみます(写真1)

マフラーをまたぐように左右へ燃料タンクが広がっているのが分かりますね。
こういう形状にしたのはわざわざ燃料タンクをリアシート下に置くためで、
それまで燃料タンクといえばトランクルーム下が多かったのですが、
それだと追突時に燃料タンクをつぶしてしまう危険性があったのです。
それでより安全な場所・・・・・・・・
つまり人間が生存する場所に近づける事で万一の事故でも
タンク破損による燃料モレの危険性を回避しようとしたんですね。
写真1を見ると燃料タンクはディファレンシャルの前、
つまりリアタイヤ前にありますからマフラーとその上にあるプロペラシャフトを
またいでいる格好になります。
そう、この燃料タンクは底が平たくなっていないんです。

燃料ポンプは進行方向向かって右側にしかありませんから、
この状態でガソリンを満タンにすると半分ほど使ったところで
右側の燃料だけを使い切ってしまい、左半分は
残ったままになってしまいます。
それではマズいので左の燃料を右の燃料ポンプ側に
送ってあげなければいけません、が、そのためにわざわざ
電動ポンプを装備するのも・・・と考えて当たり前です。
その為この形状の燃料タンクには「ジェットポンプ」
というものが内蔵されています。
どういうモノかといいますと、燃料は一度エンジンルームに送られた後、
余った燃料がタンクに帰ってくる構造になっています。
その戻ってくる燃料にジェット気流を与えて左側の燃料を吸いだして
右側に送ってしまおうというものです。
電気的、機械的構造を持たないジェットポンプは構造も極めて
シンプルで故障の危険性もほとんどない・・・はずなんですが、
困った事になぜかE38だけが異音を出してしまう車両があるようです。

ではタンクの中を見てみましょう。車内に回ってリアシートを外します(写真2)

外すと燃料ポンプにたどり着く為の蓋があるのでそれも外します(写真3)

蓋を外すと燃料ポンプが見えますね(写真4)
蓋と一緒に燃料ポンプを外すとこんな感じ(写真5)
でも異音の原因はこのポンプではありません。
燃料ポンプを外したタンクの中をのぞいてみると、
なにやらノズルっぽい物が見えてきました(写真6)
簡単に外せるので外してみましょう(写真7)

これが異音の正体です。

こいつを交換すれば異音が止まる・・・んですけど、
これ、単品で部品が出ないんです。じゃあどうすれば?
実は燃料タンクを丸ごと注文しないといけないんです!
えぇぇぇぇっ!!!本当なんです。
なんとその金額じゅうにまんえん!

このノズル、音が出たからといって特に不具合が生じるわけではないので、
たかだか異音の為だけに10万円以上もの出費はちと痛いですね。
かといって異音をそのままにするというのもこの車格に
似合わないという気もしますし、
なまじ走行に影響がない分だけ悩みどころです、ホント。

博物館とは、世の中の様々な物が生まれ育つ過程を
記録保存展示を行う場所だと思うんですけど、
博物館自体が歴史的意味を持つことは許されないものなのかなぁ、
などと考えたりして交通博物館の終焉を残念に思う私でした。

それでは、また。

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