吉田工場長の部屋
(月刊ジャーマンカーズ2004年7月号掲載)


ん?タイヤが変だぞ?

みなさんこんにちは。

いやぁ、暑いというより熱いですね、外気温が。いつも私が仕事をしているここ埼玉県は東京都の都市熱をマトモに受ける地域ですから、連日最高気温が36度とか言っておりまして、これは人間の体温と等しいかちょっと高めの温度なんですね。これはどういう事かというと、素っ裸で歩いていても人体は全く冷却されず、むしろ体温は上昇してしまうという事です。ではどうして冷却しているかというと発汗によって体の表面に冷却水を浸して気化する時に奪われる熱のおかげで体温を正常にコントロールするという、うまいことやってるわけですが、

車の場合はというと、冷却水は気化するためにあるわけではなくただ単にエンジンの発生した熱をラジエターに“移動”しているに過ぎません。それでもエンジンを冷却できるのはエンジン内部の冷却水温度はおおむね90度、ラジエター内では70度くらいと、大体外気温よりも35度くらい高いので充分冷却可能なわけです。もしラジエターを通過する空気の温度が冷却水温度よりも高かったらまずエンジンは逝ってしまうだろうと思うと人体は本当によく出来てるナと思いますが、その人体も発汗によって失われた水分を補ってやらないと例の熱中症とやらにかかってしまいますから、特に表でお仕事されている方は水分取ってくださいね。


さてさて今回はシリンダーブロックでも解体しようかな?と思ったんですが、バラされたシリンダーヘッドを見ながらかる〜い冗談で「ポート研磨するか?」と所有者の阿部君に聞いたら「やってみたいです」ぬぅあんだとぉぉぉー!あれ、大変なんだよなぁ、言わなきゃよかったかな(笑)私だってマトモにやったことないのに・・・しゃあねぇなぁ、というわけで工場の奥からリューターなる工具を出して・・・ない、無くなってる。あっれぇーないやぁ、すまん阿部君この話なかった事にしてくれ、とにっこり笑顔で私が言うと「しゃちょーが買っていいと言ってました」だって。あーそう、リューターって無振動のいいやつになると5〜6万円するんだよな、確か。でもいいんだよね、じゃあ一番高いの買うからネって事でこの雑誌でも過去に紹介されたワールドインポートツールさんにお願いして(いつもお世話になっております)持って来て頂きました(写真1)へっへっへ、やっぱり高い工具はええのぉ、などとせーきゅーしょを見ると3万5千円ちょっとくらい。あらら安くなったもんですねぇ。

ま、そーゆー訳で工具も買ってしまった事だし後にゃ引けないから頑張ってね阿部君、というわけで頑張る阿部君を尻目に(写真2)ポート研磨についてお話しましょう。ポート研磨って何でしょうね?

エンジンのパワーはエンジンを通過する空気の量でおおよそ決まってしまいます。たくさん空気を吸わせ、たくさん吐き出せばそれだけパワーが出ます。分かりやすいのは排気量ですね。大排気量エンジンはたくさん吸ってたくさん吐きますからイヤでもパワーが出ます。では小排気量エンジンはどうしましょう?小排気量エンジンにたくさん吸わせる機械で有名なのはターボチャージングシステムですね。ターボはエンジンが吸う空気を外から無理やり押し込む事でエンジンを通過する空気量を増やしてパワーを稼ぐメカニズムですが、押し込みすぎるとエンジンが破壊してしまうため適当に過給圧を制限し、エンジン側の圧縮比を落として、点火時期を遅らせて膨張比を落として、ガソリンを余計に送って燃焼温度を下げて、やっと得られたパワーは無過給エンジン比でせいぜい30%ほど。これは140PSの4ヴァルブDOHCの1800ccエンジンを過給しても200PSいくかいかないか、というおカネがかかる割にはパワーが大したことない状態になってしまいます。

加えてターボはその構造上、排気ガスの量が増えないと過給しないという問題を抱えています。つまり排気ガスの量がもともと少ない小排気量エンジンには向かないシステムなんですね。それでも小型車にターボを積むのはターボ自体があまり場所を取らず、コンパクトなために充分なエンジンスペースを取る事が困難な小型車を手っ取り早くパワーアップするのに有効だからです。BMWもかつてはターボエンジンが存在していましたが、ターボが立ち上がるまでのタイムラグが許せないのかネンピが悪くなるのがイヤなのか、現在はありませんね。Miniは一部車種にスーパーチャージャーを装備しているところをみると、ターボラグが嫌いなのかもしれません。

では無過給エンジンをパワーアップ、つまりここでいうところのたくさん空気を通過させる方法は?空気の通路を整えるしかありません。ポート研磨とはエンジンに入っていく空気をなるべくスムーズに運んであげようと通路を整える加工です。

かつてメカチューンといえばポート“加工”でした。曲がりのきついポートをなるべくまっすぐに形状を変えて、なるべく空気がストレートにエンジンに向かっていくようにするのが常識で、国産車の多くはポートの曲がりがきつかった為にこのような加工が事の他効果がありました。しかし、BMWはエンジン屋だけにポート形状がどれほどエンジンパワーに関係するか知っていたのでしょう。インテークポートは加工せずともほぼストレートに燃焼室に向かっています(写真3)

こういうポートは加工するとかえってパワーが落ちますから、成型加工によって出来てしまった段つきを削ってきれいに整えるだけで充分です(写真4)
段つきを削り落としたらざらざらした面を磨いてピカピカに仕上げます(写真5)このようにすることでガソリンがポート内壁に堆積するのを防ぐのです。これを合計12回繰り返すわけですから、そら気の遠い作業になりますナ。頑張ってね、阿部君。(と、まるっきりひとごとの私)

今回ポート研磨に使用した「歯」は5種類くらいでしたが(写真6)実はぜんっぜん足りなくて、追加発注をかけてるところですが、10年位前なら1本3万円位したはずの、買い揃えるのも恐ろしい価格を誇っていたリューターの歯が今は8千円くらいで買えちゃうらしいです。時代の流れってそうなのよね。さて、このエンジンがあとどれくらいで火が入るか?それはひとえに阿部君のどりょくとこんぢょおにかかっております。みなさんご来店された時はぜひ応援してやってくださいね。

それではまた。

PS:来月はブロックに手が入るのだろうか?

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