吉田工場長の部屋
(月刊ジャーマンカーズ2004年8月号掲載)


ん?タイヤが変だぞ?

皆さんこんにちは。

もうずいぶんと昔の話になりますが、私が小学生時代はまだテレビというものが一家に一台という時代に、どこの家庭でも必ず発生する「チャンネル争い」というものがありまして、ビデオデッキが一般家庭に存在しないのはもちろんのことテレビですら一台しかないもんですから見たい番組をめぐって親子兄弟で熾烈なチャンネル争いが繰り広げられていたんであります。今はもうテレビがないことがかえって新鮮なくらいで、各部屋にテレビがあることは決して珍しいものではなくなり、見たいものだけを選んで受信できるCS放送や大容量のデジタルビデオレコーダーの普及、さらにはインターネットによる動画配信・・・もうチャンネル争いは存在しないんだろうなぁ、と思いきや、今我が家ではインターネットチャンネル争い?が繰り広げられているではありませんか!

私が住んでいるここ埼玉県の某過疎地ではADSLのスピードが思ったほどではなく、動画を受信できるのはせいぜい1本くらいしかない状態・・・我が家には奥さん用にマッキントッシュ、主に私が使っているウィンドウズマシン、小学校3年生の長男用に慌ててパーツをかき集めてとりあえず作ったウィンドウズマシン(今時の小学校はパソコンを使った授業があるらしいです)と一応3台あったりしますが、ADSL回線が遅い(帯域が狭い)ので、複数の画面で同時に動画を再生できないんですね。奥さんは「稲川淳二のこわ〜い話」が見たいと言うし、長男はアニメが見たいと言うし、かくて我が家では狭い帯域(チャネル)を巡って、母子による壮絶な「チャネル争い」が今日も繰り広げられているんであります。チャンネル争いって永遠なんですね。ま、私的には回線が空いてるときに見りゃいいんじゃないかなと思うんですが(笑)
さて今回は阿部君のヘッドが仕上がっていよいよブロックオーバーホール・・・と思ったらまだヘッドが仕上がっていないようなので(はっはっは)ちょっと余興で電動シートの修理をお見せしましょう。BMWの電動シートはE32、7シリーズに始まり、E34、5シリーズの限定車とかV8エンジン搭載の上位機種から採用された機構ですが、基本構造はみんな同じですから、ここでは7シリーズを例にとって解説いたしましょう。

この年代のBMW電動シートで多いのは背もたれがねじれてしまう、という現象です。どうしてねじれてしまうかというと、シートのバックレストを駆動するのに1個のモーターから左右に1本ずつ、左右で合計2本のワイヤーを介しているのですが、困ったことに片方のワイヤーにトラブルが生じるとつながっているワイヤーだけでバックレストを動かそうとするもんですから、片方だけ起き上がってしまい、結果としてねじれてしまうわけです。これを修理するにはシートを車両から取り外して分解しなければいけません(写真1)

早速分解してみましょう(写真2)

BMWのシートはバックレストを取り外せる構造になっていますから背中のカバーを外してコネクター類を全て外して分離します(写真3)

こう見ていると一見正常なように見えますが、バックレスト駆動用モーターに通電してみると片方だけが動いてしまい、左右で全く角度が違ってしまっています(写真4)

ワイヤーを引き出して点検してみると、切れていません(写真5)

ではなぜ動かないんでしょうか?答えはワイヤーの接続方法にありました(写真6)この写真はワイヤーを抜き取ったモーターのシャフト部分ですが、この四角い穴の中に同じく四角い断面をもつワイヤーがぐさっと刺さっているだけなんですね。で、このワイヤーを固定してるのがプラスチックのスリーブなんですが、困ったことにこのスリーブ、経年変化で伸びてしまい、相対的にワイヤーが引っ込んでしまうもんだからこの穴から外れてしまうんです。
修理するにはワイヤーアッセンブリーを交換・・・してもいいんですが、もっと簡単な方法があります。スリーブを「少しだけ」切ってしまえばいいんです。ただ、切り過ぎれば元通りに組めないし、足りなければ直らないしで、この辺はどのくらい縮んでいるかを考慮して「目見当で」切るしかありません。上手く切れればごらんのように左右とも同じ動きをしてくれるようになります(写真7)

ところで、ほとんどのシートバックレストのよじれはバックレストが「寝た」状態で入庫するんですが、私個人的にはどうしてだろうというのが長年の疑問でした。ひょっとして車内でXXXな娘をXXXな時間にXXXXしてXXXXXXなのかなと如何わしいそーぞーをしてみたりもしましたが、よっく見てみるとこのシートも単体で動かしてみると「寝る」方向にはちゃんと同時に動いて「起き上がる」時には片方しか上がらないんです。万有引力の法則によれば、重量物は高いところから低いところに下がってきます。つまりバックレストという「重量物」は「寝る」方向には楽な仕事でも「起き上がる」方向には重たい仕事なんですね。

伸びきったスリーブによって辛うじて動かされているバックレストは楽な方向には何とか動きますが起き上がる重たい仕事には耐えられなかった、というわけだったんです。ユーザー様としてはとりあえず動く方向では可能な限り動かしてみて、べったり寝そべったバックレストが完璧によじれた状態になって初めて「このシートは壊れた」と認識し、初めて修理工場を訪れる・・・というわけで全国のBMWいぢりの皆様、今後はバックレストの修理には決して歯軋りすることなく落ち着いて修理いたしましょう(笑)
なんて言ってる間に阿部君のヘッドも仕上がったようです(写真8)来月はブロックのオーバーホールの模様をお伝え出来るかもしれません。

それではまた。

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