吉田工場長の部屋
(月刊ジャーマンカーズ2005年4月号掲載)

ん?タイヤが変だぞ?
あ 皆さんこんにちは。

春休みはどこかお出かけされましたか?

我が家は小学校4年生になる長男がいるので「よぉーし今年の春休みは恐竜展につれてってやろう」と私が言ったら、長男は「それより宇宙科学モノのほうがいい」などとぬかしヤガりまして、じゃあどこへとなりとつれてってやるから場所を決めとけや、といったら「日本科学未来館」とゆーいかにもそれっぽい場所に決定いたしまして、実際に出かけてみれば中はいかにも子供ダマしという感じのものではなく、充分オトナが楽しめ、子供にも分かりやすい科学の世界が広がっているのでした。


中でも面白かったのは「国際宇宙ステーション」で実際に使用されているものを再現したという「宇宙居住棟」と呼ばれるカプセルホテルみたいなやつでして、このカプセルの中を覗くと、本当に重力がない世界ってのは大変だなと感じてしまいます。だっておしっこひとつとっても無重力下ではひとつ間違えるとそこらじゅうにおしっこが飛び散って電子機器を壊してまわるという恐ろしい事態になってしまうんですから、無重力下でのおトイレ事情だけでも充分興味深いものがありましたよ。

でもってその施設を丁寧に開設してくれるのはその世界でお仕事をしていらっしゃるボランティアの方々。その仕事に従事されているというだけで説得力のある、しかしながら堅くない“ぶっちゃけな”お話は私も結構楽しめました。「宇宙居住棟」の前で解説して下さった方は、国際宇宙ステーションの完成模型を前に「いやぁ〜今頃はもうとっくに完成してるはずだったんだけど、お金なくなっちゃったんだよね〜」なんて、思わず笑ってしまう私を横に「そっかぁ、お金ないんじゃあしょうがないよね」と、まるで魚屋の軒先で井戸端会議やってるオバサンたちのような会話を展開する長男がさらに苦笑を誘いました。宇宙科学は今も私たちの夢を乗せていると思いますから、ハッブルも解体処分を免れた事ですし、これからも頑張ってほしいですね。

さて、今回のテーマは「ブレーキ」です。とはいってもブレーキの効きが云々という話ではなくて“鳴き”なんです。どうしてブレーキは“鳴く”のでしょうね。

BMWはブレーキが消耗限度に達すると「ブレーキライニング」という警告を発します(写真1)

警告が出るのはもちろんブレーキパッドセンサーが削れてしまったからなんですが(写真2)さて新しいブレーキパッドに交換すると、突然キーキー鳴き始める事ってあるんですよね。何ででしょう?ブレーキの鳴きはパッド自身の振動が原因です。ブレーキパッドが微振動を起こし、その振動音が“鳴き”として発生するのです。
ではどこで微振動を発生させてしまうのでしょうか?ブレーキパッドの鳴きは“角”で発生します。具体的にはディスクローターの内側と外側のところで発生します(写真3)
使い古したブレーキパッドと新品のブレーキパッドを見比べてみると、お古のパッドは角がうまーいこと削れていますよね(写真4)この丸くなった角がディスクローターの削れた角と絶妙なバランスを保って鳴きを抑えていたんです。ところが、新品のパッドを組み付けると、そのバランスが崩れてしまい、すこしばかり削れたローターと、思いっきり角の立ったパッドとの間で見事にブレーキ鳴きが発生してしまうのです
(もいっぺん写真3を見て下さい)そこで、新品のパッドの“角取り”をするのです(写真5)
分かりやすくするためにお古のパッドと角取りしたパッドを並べてみましょう(写真6)ディスクローターとパッドの接触面に異変が起きるために鳴きが発生してしまうので、馴染ませるためにパッドの角を落とすわけです。
また、振動を抑えるためのパッドグリースも重要です。普通は微粒子コンパウンドが入った「スレッドコンパウンド」というやつを使用するのですが(写真7)
あまりにも鳴きがひどい場合には、より鳴き対策を重視した「ブレーキプロテクター」という専用グリースを用います(写真8)グリースの特性によって、ブレーキパッドの振動を抑える能力も変わってきますので、ケースバイケースで対応する必要があるわけです。

また、パッド自身にも工夫が見られます。

通称「アンチスキルシム」と呼ばれる薄い鉄板みたいなものがブレーキパッドに貼り付けられています(写真9)これもパッドが余計な振動を起こさない為に設けられたものです。

ぶっちゃけな話をしてしまうと、パッドの鳴きはブレーキの効き具合に何ら関係ない事なので私はブレーキの角取りもしなければ、パッドグリースも塗りません。これは個人的な感想なんですが、パッドグリースを塗ってしまうと、何となくブレーキのタッチがスポンジーな気がして仕方がないんです。

で、何も処置せずにそのまんま組み付けるわけですが、そうすると当然「キーキー」と鳴きが発生しまして、私はそれ自体なんとも思わないのですが、わが女房殿のおかーさま曰く「何だか自転車の音みたい」らしいです。あたしゃあ天下のスポーツセダン「BMW」に乗っているんだぁっという自尊心を著しく傷つけるコメントだと思うと、ブレーキ鳴きに対するオーナー様の執着たるや、そりゃあ真摯な気持ちだと思います、が、そこをあえて何も処置しないで組み付けてほしい、というご要望であれば、もちろん応じます。

宇宙開発というと、1992年頃のアニメでは「2007年くらいには第2宇宙ステーションの建設が完了し・・・」なんて言ってましたし、もっと旧い話では「2001年宇宙の旅」では2001年には一般人が宇宙ステーションにあたかも海外旅行のごとくお出かけする“はず”だったわけで、そういう過去の考えた未来にはまだまだ及んでいない現状を振り返ると、いくら技術の進歩は凄まじいといってみたところで、根本的にはまだまだ進化はゆったりしたもんだなぁ、と感じてしまいますね。

自動車を取り巻く環境ひとつとっても、未だに「ワイパー」という原始的な視界確保手段すら変化が見られないのですから。この先、自動車ってどうなって行くんでしょうね。楽しみな反面、不安でもあります。

それでは、また。

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