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工場長の戯れ
2006年03月02日の戯れ
仕事柄、時々メルセデス・ベンツの修理なんぞもやったりする。
今日は、あの、えと、なんだ、えーっとW140だっけ?でっかいSクラス。あの一つ前のモデル。
そうそう、フロントグリルがモコっとしてるあれ。サイドブレーキがへんてこりんなヤツ。
そのメルセデスの直列6気筒SOHCエンジンが水漏れ起こしちゃって、
ヒーターパイプに穴が開いちゃってたもんだからそれを交換して、
ウォーターポンプとサーモスタットも新調したのである。
さて全て首尾よく終わっていよいよ試運転である。
車内に滑り込んで、イグニッションを回して、軽快にスタート、よしよし。
で、いかにも古めかしいエアコンスイッチ(っていうよりボタンだな)を押して、
温度調整ダイヤルをヒート側にMAXまで回したら、
例のギザギザのミゾがついたセレクターレバーをこきこきと動かして、
へんてこりんなサイドブレーキを戻して、
重たいスロットルペダルをぐにゅ〜っと踏むと、大きなボディがゆるゆると加速する。
そう、メルセデスって動きがゆるゆるっていう表現がぴったりだと思う。
ゆる〜いんじゃなくて、ゆるゆるとした感じ。
これは聞きかじりなんだけど、
メルセデスの哲学に「急のつく動作はダメっ」っていうのがあるんだそうな。
人間は危機を回避するためにしばしば「急」のつく動作をする。
急ハンドル、急ブレーキ・・・その時に車がリニアに反応してしまってはヒジョーに危険だ、というわけだ。
だから、ハンドル、ブレーキ、アクセルの類は初期動作があえて緩慢に反応するよう仕組んである、という事らしい。
そんなBMWとは異次元の感覚を楽しみながら、巨体の向きを変えるべくステアリングを回すと、意外なくらい小回りが利く。
まるで関取りが見事な回り込みをするがごとくである。そんな巨体が走り出すと、まるで宙に浮いているような感覚である。
昔の国産高級車のようなフワフワでもなければ、BMWのようなかっちり感とも違う。
確かにタイヤは路面をしっかり捉えてはいるんだけど、ボディは浮いたままで路面の“余計な”情報は一切伝えない。
まるでエアサスを搭載した新幹線にでも乗ってる感覚である。速度計も知らない間にここでは書けないくらいの数値を指している。
実にフシギな感覚である。よくぞここまで俗世を絶つ事ができるなと感心しながら、自分でも知らない間にこのメルセデスを楽しんでいた。
今はとてもじゃないが退屈で乗る気がしないのだけれど、あと20年もしたら、こういう車もいいかな?と思う。
乗り味の話ばかりしていたが、スタイルもこの頃のメルセデスはとってもかっこいいと思う。
個人的には560SLとか560SECなんかも端整で美しいと思う。
問題は、あと20年後にこの車が存在しているか?
というツッコミはおいといて(メルセデスのクォリティなら残ると思うが)
私自身がそれに相応しいオトナになっているかどうか、というところだろう。
そんな私が今愛用してるのはE30の320、2ドアセダン、通称Mテクである。
こいつも何気に年代モノになりつつあって、製造されてからもう18年くらい経過してるんである。
18年前、当時の私は民間車検工場でトラックばかりをいじっていた。
月収12万円の私が当時500万円以上もする外車を夢見る事はなく、
会社で使っていた代車の210型サニー(回らないので有名な)L14エンジン、
SUツインキャブ仕様を未熟な運転技術で乗り回し、クラッチを焦がすのが関の山だった。
そんなビンボーな私を尻目に、世の中は不況を脱し、あの「バブル経済」に突入するのである。
そんな当時のE30は「六本木のカローラ」と言われていた。
なかなか面白い物言いだと思う。六本木がどんな場所か、BMWがどんなイメージの車なのかを良く語ってるような気がする。
多分その含みは「六本木のセレブはお洒落なBMWを粋に、さも自然に転がします」という事だろう。
当時はセレブなんてオシャレな言葉も人物もいない代わりに「ヤングエグゼクティブ」という人間が大量発生した。
このヤンエグという私と同世代の生き物は、大した営業教育も受けさせてもらえずに
言われるがまま不動産の類をコロがしたりしながら年収1000万円!
といった能力以上の収入を得て、またそのカネを湯水のように使いまくった連中である。あーくやしい(笑)
そんな人間たちにもBMWは好評だったと聞く。私のE30も、もしかするとファーストオーナーはヤンエグだったのだろうか?
そしてどんな車に乗り換えていったのだろう?メルセデスに乗って経済社会のチャンピオンを夢見たのか、
フェラーリに乗ってモテ男街道をまっしぐらに進んだのか、それともポルシェ・ターボを駆って湾岸族に挑んだのか、
あるいはBMWに魅せられて再びBMWを手に入れたのか・・・
そんなバブル時代の被害者、ヤンエグ達は今ごろどうしているのだろう。元気にしてるかなぁ。
今、一つだけ言えるのは、私はそんなヤンエグにわき目も振らずこの仕事を選んで結局はよかった、という事だ。
そんなE30も、今やどれほどコンディションが優れていても、残念ながら下取り価格はほとんどつかない状態だ。
が、それでいい。
考えてみてほしい。もしこのなんでもないE30が明日から2億円の価値がついたらどうだろう?
今までやれスタイルがエンジンがと言っていた連中がこぞって愛車を売却し、その資金で新車に手を染め、
本当にE30を愛する連中は「いいクルマにお乗りですねぇ」と数奇な視線を浴び、当然パーツ単価が上昇する。
本体価格も狂ったように上昇を続ける。
マニアが決してそれを望んでいない事は、かつてバブルでボロボロになったフェラーリフリークが熱く語ってくれるだろう。
だから、下取りゼロがいいのだ。
ゼロ取りのクルマを大事に乗る、これは本当に贅沢な事なんじゃなかろうか?
それはダレも価値を認めないクルマに真価を見出す、マニアだけの聖域なのだから。
私の車は、時に調子を崩しつつも、いまだ現役の、いい相棒だ。
あぁそうだ、エンジンマウントとロアアームブッシュも早いトコ交換してやらんとなぁ。
吉田工場長